アカデミー賞受賞作品2本立て『英国王のスピーチ』と『ザ・ファイター』

2011/8/7 目黒シネマにて鑑賞。


英国王のスピーチ



英国王ジョージ5世の次男ジョージ6世は、幼い頃から吃音というコンプレックスを抱え、人前に出ることを極端に恐れる内向的な性格となり、成人してからも自分を否定し続ける人生を送っていた。吃音を克服すべく、何人もの言語聴覚士の治療を受けるものの一向に改善の兆しは見られない。そんな夫を心配する妻エリザベスが最後に頼ったのはスピーチ矯正の専門家というオーストラリア人のライオネル。彼は王子に対しても遠慮のない物言いで次々と風変わりな治療法を実践していく。そんな中、国王に即位した兄エドワード8世が、王室が認めない女性との愛を貫き、突如王位を返上してしまう。王位の継承など考えてもいなかったジョージは、最も恐れていた事態に直面し、恐怖のあまり泣き崩れてしまうが…。
[出典] http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=338127


あらすじを見ずに行ったら、バーティ(※ジョージ6世の愛称)が映画の冒頭時点でまだ英国王じゃなかったことにまず驚きました。しばらくヨーク公って??とか思ってた…。
物語自体にドラマティックな展開はありませんでしたが、演者一人ひとりの表情や台詞回しが感情豊かで、バーティという一人の男の成長譚として凄く面白かったです。私も人に伝えるのがあまり得意じゃないので、バーティの悩みにはすごく共感しました。私もライオネルに習いたい!「意識してやると上手くいかないけど、無意識のときは意外と出来てる」に深くうなずく。本当にそうなんですよねぇ…。
俳優陣は、ベテランばかりというのもあってか抜群の安定感でした。実はコリン・ファースを初めてちゃんと観たのですが、すごく良かった!!メンタル弱くて吃音コンプレックスの塊だけど王族としてのプライドと気品はしっかり持っているバーティをとても真摯に演じていて、好きになってしまいました。もちろんジェフリー・ラッシュも素晴らしかったのですが、私はヘレナ・ボナム=カーターを推したいと思います。かの『アリス・イン・ワンダーランド』でその名を知った者としてはまず「本当はこんな顔だったんだ!」というのが一番先にきたのですが(しかし美人だなぁ…)、本作ではとにかく彼女のその表情の演技に魅せられました。特にラストシーンは圧巻。こんな良い奥さんめったにいないよバーティ!うらやましい!
最近英国圏が気になる(完全にマカヴォイさんの影響w)ので、城や家の内装とか食器類をうっとりしながら観てました。豪華絢爛なんだけど、気品を忘れないセンスが素敵です。お紅茶飲みたくなりました。



『ザ・ファイター』



アメリカ、マサチューセッツ州低所得者の労働者階級が暮らす寂れた街、ローウェル。兄ディッキーは、一度は天才ボクサーとしてスポットライトを浴びたもののドラッグで身を持ち崩してしまい、今ではあのシュガー・レイ・レナードからダウンを奪ったというかつての栄光にしがみつくだけの荒んだ日々を送っていた。一方、対照的な性格の弟ミッキーもボクサーとして活躍するが、自分勝手な兄とマネージャーでありながらマッチメイクに無頓着な母アリスに振り回され連敗続き。ミッキーの新たな恋人シャーリーンは、悪影響ばかりの家族から離れるべきだとミッキーを説得するが…。
[出典] http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=338580


チャンベ!チャンベ!
「周囲からダメだと思われていた人間が徐々にその才能を開花させ、認められていく」という設定がたまらなく好きな私にとって、なんという漲るストーリー展開!その持っていき方も巧いので、存分に燃えさせていただきました。特にディッキーが出所してきてからはフルスロットル!!本作での「ダメだと思われていた人間」=ディッキー&ミッキー兄弟は一度は道を分かってしまうけど、それぞれ違った形で選択して努力して「才能を開花させ」、クライマックスではとうとう2人で力を合わせてチャンピオンを勝ち取り「認められる」…これはもう燃えないわけがない!!
もしフィクションだったらステレオタイプ的に扱われそうな家族(特にお母さんやお姉さん達)との関係性も、実話を基にした作品ということで、しっかり向き合って描かれていて好感を持ちました。シャーリーンとのキャットファイトも面白かったなー。なんかスカッとした!
しかし上映中のほとんどの時間、私はディッキー役のクリスチャン・ベールに釘付けでした。凄いよあの人…。『バットマン・ビギンズ』の主人公と同一人物とは今でも思えません。エンドロールで実際のディッキー&ミッキー兄弟が登場するのですが、チャンベ演じるディッキーとディッキー本人が一瞬シンクロして見えて、鳥肌が立ちました。



さて上記2作品ですが、【アカデミー賞受賞作】という共通点のほかにもうひとつ、【兄弟】という共通点があるんですよね。しかも兄と弟の関係性が微妙に似ている気がします。両作品とも(どちらかというと)内向的な弟が主人公で、快活で社交的な兄に対して大なり小なりコンプレックスを抱いている。以下はあくまで妄想ですが、私は兄の方にも弟に対するコンプレックスがあったと思うんですよね。
英国王のスピーチ』は、兄が弟に王位を譲ったのは道ならぬ恋のためではあったけど、それを実行したのは弟の"英国王としての才能"を見抜いていたからなのではないでしょうか。そして自分にはその弟ほど才能がないと感じていたからこそ、あっさりと王位を退いた(=逃げた)ように思えました。
『ザ・ファイター』はそれこそ兄弟の関係性がメインで、実力はあるのにちゃらんぽらんな兄に真面目な弟は苛立ちを募らせますが、兄はそんな優しくて精神力の強い弟に憧れのような感情を抱いていたんじゃないかと思うのです。同時に、自分に対する諦めのようなものも。でも刑務所に入ってそんな弱い自分と向き合って立ち直る決意をし、最後は"弟のために力を尽くす"という決断をしたのだと思います。


ちなみにこの2本立ては目黒シネマにて8/26(金)まで上映中なので、未見の方はぜひ!オススメです。